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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

高砂の尉の仮装をした、老人らしい人物を中にはさみ、その左には猩々に扮し、赤毛を背に垂れた人物が行き、その右には阿蘭陀風の、胴服を纒った人物が行き、その後から仕丁姿の、二人の小男が扈従をし、それらを警護するように、花やかな花四天の扮装をした、三十余人の壮漢を率い、山伏姿に天狗の面をつけた、精悍らしい男が行き、少し離れて穏かに、衣冠束帯の公卿姿をした男が沓を引きずりながら従っていた。いずれも仮面をつけていた。

「尉姿が将軍家じゃ」と、冬次郎が囁いた。「猩々姿が田沼意次、阿蘭陀風が平賀源内、仕丁姿の二人の奴は、田沼が進めた悪医師どもじゃ。天狗の面が九十郎、公卿姿が貝十郎じゃ。……越中守様より内々のお知らせ、で、これには間違いはない」

「どこへ参るのでござりまするか?」

熊太郎が訊き返した。

「宴が終えたので寝に入るのじゃ。阿蘭陀風の別館へ行かれ、将軍家御寝なされるのじゃ」冬次郎は苦々しくいった。

「それからが大変じゃ。……兇事行われるそれ以前に、どうでも将軍家を救い出さねば……範之丞!」と冬次郎は、勇気づけるように範之丞へいった。「将軍家寝所へお入りの後は、いよいよもって無礼講、招待された追従武士ども、呼び集められた遊女や女芸人、腰元どもとトチ狂い、乱痴気騒ぎするであろう。