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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
はじめて織江はそう云って、たかぶる動悸を抑えるかのように、そっと胸へ手をやった。
「範之丞殿潜入された理由、そなたにはご承知でござりましょうな?」
「はい……敵……九十郎を……」
「そなたも一緒に討ちたいでござろう?」
「…………」織江は俯向いて膝を見詰めた。
「拙者、そなたをお連れして以来、失礼の待遇いたしましたかな?」
「いえいえ決して、滅相もない……分に過ぎるほどご丁寧に……」
「その儀三人に逢われましたら、そなたの口からお話しくだされ」
「…………」
「その装束では万事に不都合、田舎娘の衣裳万端、小太刀も添えて隣り部屋にござる、身軽に出で立ちお出でなされ」
「まあ」と織江は声をはずませた。「それでは妾をおゆるしくだされて?」
「今日まで保護しておりましたのじゃ。……かかる機会あるようにと。……田沼様へはこの貝十郎、指一本誰にもさわらせぬ。……が、九十郎、九十郎如きは、剣鬼、無双の手利きながら、惜しくない奴、小人に過ぎぬ。……天狗の仮装いたしおる彼を、兄上ともども討ち取って、首尾よく本望をおとげなされ。……そこでわしも衣裳代えじゃ。アッハッハッ、忙がしい」
七
意次は庭を歩いていた。