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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

うるさがたになってしまったのである。

それにしてもどうにもお吉にとって、不思議でならないことがあった。

半月ばかり前からのことであるが、それまでは立てて養ってくれる、自分に対して恩を感じ、気の毒にも感じているからか、以前にもまして大切にし、縋るようにしていた九十郎が、にわかに変に物を隠したり、厭味をいったり乱暴をしたり、二、三日前からは事もあろうに、

「のうお吉、お前の商売、まずもって厭アなものさ。やがては瘡を掻くだろう、鼻が落ちたり眼がつぶれたり、膿がジクジク流れ出したり……といってそいつを止めさせるような、好い運、俺にゃア巡って来ねえ。来ねえ来ねえ絶対に来ねえ、甲斐性のねえ亭主だアね、……別れた方がよさそうだのう」

と、別れ話を持ち出したではないか。

そういうことには敏感のお吉、

(他に情婦をこしらえやアがったな)

(もしそうならどうするか見やがれ!)

で、今日こそは確かめてやろうと、決心をしていたのであった。

「ねえお前さん」

とお吉はいった。

「正直にいったらいいじゃアないか」

「何をよ」

と九十郎はこの頃になって、わけても下卑て来た言葉つきでいった。