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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
出来た隙間を無理につないで、友白毛まで添いとげる――というやつは高砂やアと、仲人っていう剽軽者がはいり、謡ってこしらえた夫婦だけさ。こいつア窮屈でお歯に合わねえ。ナーニそういう夫婦にしてからが、縁がなけりゃア別れてしまう。そこへゆくとこちとらの仲はいいや、誰もが仲へはいったんじゃアねえ、一緒になろうヨ、ようござんすと、くっ付き合った仲だアね。そこで別れもアッサリ閑だ。……お吉、俺ア別れるぜ」
起こした体をまた横にし、雨もりの跡やら黴の跡やら、斑紋だらけの古襖の裾に、これだけは艶かしく置いてある、緋の胴がけの三味線へ、冷たい視線を投げてやって、九十郎はいい放した。
(恋どころか怨みもねえ)
そういったような態度であった。
と、お吉の歯が鳴った。
ペッと吐き出したは食い千切った、ほつれた鬢の毛であった。
「オイ、それでも人間かい!」
またキリキリと歯を鳴らした。
「飽きが来たから別れるって! 厭になったから別れるって! オイ、それでも人間かい! いいえさ人間のセリフかよ! ……そうじゃアないか、ねえお前さん、これが普通のくらしをしていて、お互い尋常のくらしをしていて、別れるというなら話になる。