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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

それからわずか経った時、範之丞と織江とその武士とは、高島へ向かう街道を、なんどりとした春陽を浴び、話しながら歩いていた。

「ははア……桑名侯ご藩中、服部範之丞殿にお妹ごの、織江様と仰せられる、ははアさようでござりますか。……拙者は南部の浪人で、高島の城下へ形ばかりの、町道場を開きおるもの、姓は司馬、名は又助、出世出来そうもない人間でござる。アッハハ、いやはやどうも。……が、これでちょっとばかり、任侠の気がありましてな、自分で申すも変なものでござるが、ああいう雲助や馬方などをも、時々世話してやりますので、まアまア名ぐらい知られております」

いいいい又助は横眼を飛ばしては、織江の顔や姿を見、

(どこかへ売かすと一月や二月、飲み代にはなる上玉だ)

そんなことを思っていた。

「あんな塩梅式にお助けし……アッハッハ、何が何が、お助けでも何んでもござらぬが、とにかく虻蜂を追っ払い、こうしてご懇意になってみれば、他人でないような気持ちがいたす。で立ち入ってお訊ねいたすが、ご道中のお目的は?」

「さあ」

と範之丞はいい淀んだ。

悪漢どもを追い払ってくれた、その好意は感じていたが、又助という人物の様子、何んとも信用出来ぬところがある、うかうか真実など話したら、面白くなく危険なことが。