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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
「殺してはならぬと仰せられるか!」
「いや……しかし……殺すお気か?」
「災いの根なら……」
「凄いのう」
「刈り取るまでよ!」
「あったら女を……」
「貴殿欲しいか?」
「バ、馬鹿な!」
「でもあるまい」
「ひとの女房を……」
「遠慮する柄か!」
「…………」
この時又助が言葉を入れた。
「女を殺す、ちとよくない。わしもそれには同意せぬの」
九十郎は荒々しい眼で、今度は又助を睨むように見た。
「織江とかいう女、助けたがよろしい」
「…………」
「売かして、金にして、飲むとはどうだ」
「貴殿たちにはよろしかろう」
「貴殿も飲むのじゃ、三人で飲むのじゃ」
「飲む飲まぬ、何を痴言、息ある限りあの女、拙者を狙うことご存知ないか!」
「ナールほど、そうだったのう」
燈火がともされる時刻となった。
脇本陣楢屋の奥の座敷では、冬次郎が熊太郎を相手にし、わざと婢の酌をことわり、勘助や清三郎に酌をさせ、酒汲み交わし話していた。
「田沼の没落も遠くない。……彼奴この頃御殿への出仕を、いたさぬという噂を聞いた」
冬次郎はそういって会心そうに笑った。
「将軍家のお覚えめでたくなくなり、田沼の施政徐々に廃され、諸閣老方擡頭し参られ、ご親藩三家や越中守様たち、いよいよ手強く田沼に抗し、それに彼奴の忰意知めを刺殺した、佐野善左衛門に類するところの、硬骨多血の近侍の武士、近来