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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「いつお立ちにござりまするか?」

ややあって卒然と貝十郎は訊いた。

「いつこの地をお立ちにござりまするか?」

「さあ……わからぬ……決めていない」

冬次郎は少しうるさそうにいった。

「それがどうお前にかかわりがあるのか?」

しかし貝十郎はそれには答えず、

「どちらへお越しにござりまするか?」

「信濃一円見て廻るつもりじゃ」

「佐久の方へもおいででござりましょうな」

「参る。あそこが眼目じゃ」

「さてこそ!」

と貝十郎は唸るようにいった。

いって冬次郎を睨むように見た。

「さてこそ? ……何んだ? ……貝十郎? ……佐久へ行くのがなぜさてこそじゃ?」

「浅間の山がござります」

「一昨年爆発し、農民に大災害を与えたはずじゃ。その後の農村を見ようと思って、わしは出かけて行くのじゃよ」

「浅間山麓に田沼様の、山屋敷があるはずにござります」

「そんな噂を聞いておる。あの辺は本来遠江守様の領地、それを柳営禁猟地の、多摩川附近に逃げ水屋敷を造った、その手であの地に山屋敷を作り、時々参るということじゃ。……が、それが何んとしたかな」

「は」

といったが貝十郎は、またもここでいい淀んだ。

と、不意に手を仕えた。