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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

ず! ……」

切りつ防ぎつ、叫ぶのであった。

怒り、悔恨、憎悪、恐怖――渦巻き、たかぶり狂う感情! 感情にグラグラゆすぶられながら、

「妹ヨーッ!」

と範之丞、馳せ寄って無頼の若侍どもを、切り崩そうと焦心るのであったが、いつか己の前へ廻り、織江との中を遮って、上段に刀を振り冠り、動かば一討ちと構えている。九十郎の姿に圧せられ、身動きすることさえ出来なかった。

裾たくし上げて帯に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)んだ。で、細っこい脛ながら、武道で鍛えた腱の逞ましさ、そいつを蒼白い月光に、生々と見せてムキ出しにし、延び延びと立った九十郎、

「それもいい、気に入ったぞ、男は膾に俺が切る! 女は捕えて又助が介抱、すなわちなぐさんで叩き売る! ……前代未聞の返り討ち! 気に入ったぞ、フッフッフッ」

含み笑いも幽鬼さながら、

「討て! 敵じゃ! 俺は敵! 討てめえがのう、討てたら討て!」

ユサユサと刀を頭上でゆすぶり、

「どうだどうだアー、討てめえがのう」

「…………」

無言! 切歯! 範之丞! 付けた刀が、顫える、顫える!

段違いの業の悲しさは、引きもならず、進みもならない。