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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
と云い交わすや、四方へ分かれて逃げてしまった。
「新助エーしめた、玉アどうした?」
「いねえ、外伝、ふけっちゃったア」
「気絶していた様子だったが……」
「変だなア、どこにもいねえ」
「何んのために俺らア働いたんだい?」
「考えようぜ、わからなくなった」
「だから田舎は厭だってんだ。……田舎へ来ると江戸の住人、間の抜けた目にあわされる」
「芒ッ原が魔物だぜ」
「狐ちきでもいるのかなア」
「引っ返そうぜ、こわくなった」
「町で一杯飲み直そうぜ」
「今度は貝十郎もやりそこなったぞ」
松平冬次郎はそういいながら、戸ヶ崎熊太郎へ笑顔を向けた。
「才ある者は才に負ける。先見の明あきらか過ぎる彼、取り越し苦労して云わでものことを、わしにわざわざ云って来たため、田沼意次この地へ参り、諏訪侯お城に滞在のこと、容易わしに知られてしまった」
高島の城へ続いている、松の並木を左右に持った、長い大手の縄手道を、熊太郎や清三郎を連れて、お城の方へ歩きながら、そう冬次郎は云いつづけた。
六
「田沼め身辺の危険を感じ、江戸にもいられず領国相良の、自分の城へも帰って行けず、他人の領地へ他人の名義で、ひそかに造り設けたという、浅間山麓の山屋敷へ、こっそり落ちて行こうとして、この諏訪の地へは来たのであろう。