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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「逃げ水屋敷などへお成りなされた」

「…………」

「田沼の稲荷堀の屋敷などへも、一再ならずお成りなされている」

「…………」

「下様から見れば将軍家などの行状、出るにも入るにも大袈裟一方、正視などしたら眼が潰れると、それくらいに思っているであろうが、真の私的の、真の裏の、お生活振りというものは、意外にあっさりした簡単なものじゃ。……もちろんお成りにも幾通りかある、公的のお成りとあろうものなら、臣下の屋敷へのお成りであろうと、その臣下へ箔をつけてやろうと、そういう意味も加わって、供揃えなど堂々としてい、それにはそれとしての定規もあるが、いうところの忍びのお成り、これになると簡単至極じゃ。……ましてや老中の私的生活など、下様からは想像出来ないほど、一方複雑、一方簡単、一方権勢的、一方恐怖的、不断に他人を怯やかしているかと思うと、絶えず自分が怯やかされている……」

この時行く手に墨で描いた、絵のように見えている高島城の、櫓や天守閣や石垣を、背景として縄手道を、一挺の駕籠を中に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)んだ、十人の人々が、しずかにこっちへ歩いて来た。