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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「はい、さようにござります」

ここで貝十郎は打ち案じた。

「今夜あたりが少し物騒、邸の内外警護するよう」

「かしこまりましてござります」

伴作は一揖して立ち去った。

冬次郎の一団が高島城下から、自分たちの一行を尾行けて来て、この塩尻までやって来て、ここからおよそ半里距てている、苗字帯刀を許されている豪農、諸角覚蔵方に滞在している。――ということを知ったので、このお方に一揆を指揮されたら、それこそ大変なことになる。またこっちへ切り込まれても容易ならぬことになると、それを案じて貝十郎が、桐島伴作に命を含め、様子をうかがわせていたのであった。

「お浦」

と貝十郎はややあっていった。

「後継者に関して上様には、どのようなこと仰せられたかな?」

「…………」

その時までお浦はうっとりとした眼附きで、朝の陽の中につばらかに咲き、小鳥が時々やって来て、枝を渡り花弁を散らす、庭の梅の花を眺めていたが、そういわれて貝十郎を見た。

でも何んともいわなかった。

狂った心にも上様のことを、あまり他人に話してはいけないと、そう思ったかららしい。

貝十郎は苦笑いをした。

(この娘の心を占めているものは、いとしい上様一人だけらしい。