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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

……私使いまする忍術というは、この蜈蚣衆忍術にござりまする。……この忍術もて主計方へ入り込み、田沼めを一刀に刺し殺し……しばらく! 静かに!」

と不意にいって、郡兵衛は体を畳へ伏せた。

(はてな)

と冬次郎と熊太郎とは、顔を見合わせて息を呑んだ。

俄然郡兵衛は大音をあげた。

「床下に何者か忍びおり、話盗み聞きいたしおります! ご家来衆狩り出し縛めとりなされ!」

声に応じて外伝と新助とが、庭へ飛び下りる姿が見えた。

間もなく喚く声が聞こえて来た。

「いたーッ、……捕ったーッ……捕ってやったーッ」

「大変だーッ……桐島さんだーッ」

冬次郎は熊太郎と郡兵衛とを連れて、座敷を出て縁に立った。

外伝と新助とに袂を取られた、貝十郎配下の同心の、桐島伴作が無念そうに、顔を地に向け立っている姿が、夕陽に明るく染められて見えた。

夜が更けて細雨が降り出して来た。

塩尻の宿はことごとく眠り、戸をとざされた家々からは、燈火一筋洩れていなかった。

まして郊外桔梗ヶ原は、墨のような闇に一色され、森も林も丘も藪も、その闇の中に埋ずもれて、そこで雨に濡れ小声で咽ぶ、夜鳥の声は聞こえたが、姿はかいくれ解らなかった。