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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

全く悲痛の無言であった。

郡兵衛今は魂消え気萎え、怒りばかりは燃え狂っていたが、頭は乱れ胸は動悸、沈着きことごとく失われてしまった。

暗中に小太刀を必死と構え、忍術衆としての自負と自信を、破壊し失わせた怨敵を、一太刀なりと怨まんものと、足の爪先に土を噛ませ、ジリリと詰め、ジリリと詰めた。

迎えて立った貝十郎、刀も抜かず手練の十手、右手に構えて左手は腰へ、柔かくあてて足は前後に、これも柔かく開いて踏み、心眼働けば肉眼も活躍、闇にも見ゆる相手の動作を、仔細に看取し静まっていた。

しかり、静まってはいるのであったが、かかる場合に用いてこそ、真価を発揮する堤宝山流の窮極の精髄「十全」の遠あて! これで挫いているのであった。

見よ、ジリジリと詰めて来ていた、郡兵衛今は進みかね、像のように立ったではないか。

「阿!」

吐く息!

勝負決いた!

ガックリ腰挫け大地に坐り、両足を開いて左右へ投げ出し、刀も落とし両の拳を、左右の膝の上へのせ、首うな垂れ瞑目し、郡兵衛は全く動かなくなった。

「ご姓名は?」

と近寄って、その前へ立って貝十郎は訊いた。

返事はただの無言であった。