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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「城より本陣へ移したというか?」

「御意、お城より田沼様を本陣柊屋へ一旦移し、あらためて発足いたさせました」

「取り越し苦労! 換言すれば智恵負け! 貝十郎汝智恵負けしたぞ!」

「…………」

「高島にての汝の所業、万事智恵負け智恵負けであったぞ! ……脇本陣楢屋へ汝参って、あのような言説述べさえせねば、田沼彼の地におりしこと、この冬次郎知らなかったものを!」

「…………」

「ワッハッハッハッ、十二神貝十郎! そちほどの明察叡智の男を、智恵負けさせたかと冬次郎思えば、快いぞ快いぞ快いぞ! ワッハッハッハッ、快いぞ!」

「殿!」

と貝十郎は苦渋をもっていった。

「わたくし決して智恵あろうなどと、思いしことかつてござりませぬ。されば殿ほどのお方の口より、智恵負けいたしたといわれましたこと、かえって甚だ光栄の至り、名誉と存じますでござります。……が、今にしてはじめて知る、殿、高島お城下にては、たしかに貝十郎観察をあやまり、殿に乗ぜられましてござります。……とはいえ殿、冬次郎様、あの際におきましてはわたくしならずとも、誰であろうと田沼討とうと、冬次郎様事後追うて来たわと、観察いたすでござりましょう。