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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

殿へも言上いたしましたはず。……高島お城下にて高島お城より、舁ぎ出だされた女乗り物より……」

「思い出したぞ。そうであったな」

冬次郎は頷いた。

「が、貝十郎その言葉の意味は?」

「将軍家後継者に関しまする、重大のお書き附けをお浦より、越中守様へ差し上げよ。――そういう意味にござりまする。……逃げ水屋敷の乱闘の夜、わたくしお浦を将軍様お部屋へ、差し出しましてござりまする。その時おそらく将軍家より、お浦儀お書き附けをお預かりいたし……さらにお浦に糺しましたところ、将軍家その時後継者に関し、涙催され何事やら、申されましたと申すこと……」

「真実なれば一大事! ……それにいたしてもそのお書き附け、お浦今日も所持しおるか?」

「狂女の一念隠しに隠し、この私にも手渡さず、今にたしかに所持いたしおります」

「とあればお浦は大事な人間!」

「拙者を討たばそのお浦、同じく討たれて死にましょうぞ!」

冬次郎は切歯して考えたが、猛然として絶叫した。

「いや許さぬ、汝は許さぬ! 二刻経つにはまだまだ間がある。汝をここで討って取り、汝の附き添わぬ田沼なんど、それこそ窮鳥殺すに易い、直ちに主計方へ取り詰めて、田沼を討ち取りお浦を捕える! ……観念!」