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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
た、九十郎が立っていた。
そうして二町のあなたにある、十四、五軒の人家の方へ、いまだに喚き怒号しいしい、逃げて行く浪人と百姓との群が、暗きが中に幽かに見えた。
と、この時まで木立の蔭で、様子をうかがっていた大髻の武士が、ソロッと進み出で九十郎に近より、懐中から手拭いを取り出したが、慇懃に前へ差し出した。
「お見事。……まず……これで血を……」
「…………」
九十郎は一揖した。
「甲州浪人山県大蔵、佐久に起こりました百姓一揆に、微力ながらも加担しおるもの、義兄弟の高阪郡兵衛というもの……」
「ナニ高阪? ……郡兵衛殿? ……」九十郎は眼を見張った。
「もしやご存知? ……その郡兵衛、あるお方を総帥にあおぐと申し、塩尻の宿へ参りましたが……」
「…………」
「心もとなく拙者存じ、安否きづかい尋ね参りし途次……」
「…………」
「一揆の宗徒と称する贋物……」
「贋物? なるほど、さようでござろう。……今の奴ばら、贋物でござろう」
「あのような贋物横行いたしますゆえ、誠心誠意もて働くわれわれ、疑惑の眼もて見られまする」
「…………」
「討ち果たそうと尾行けて参りましたところ、貴殿のお手にて切り散らされ……」