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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

そういう憂き目に逢ったのも、九十郎に父親を討たれたからだ。

それにもう一つ司馬又助や、贋一揆の浪人ばらから、九十郎が自分を助けたのは、彼が自分を専有し、情慾の犠牲にしようがためで、決して自分を精神的などで、愛していたためではないということが、あまりに明らかに知れているからであった。

(恩に感ずる毫末もない!)

で彼女はそれ以来、どうぞして九十郎を討って取ろうと、不断に隙をうかがった。

が、いかんせん九十郎には、討って取られるような隙はなかった。

それに一揆衆に加わって以来、彼女は真心の底から、百姓の困苦の生活に、同情の涙をそそいでしまった。生きたいという意志があり、生きようとして人間としての、あらゆる努力をし抜きながら、みすみす饑えて死んで行く! ……恋愛などで他界を夢見て、恍惚状態で心中するなどとは、似ても似つかない苦痛の中で、みすみす饑えて死んで行く! ……この事実は都会産まれで、武士という上層の階級に育った、その彼女には思いもおよばなかった恐ろしい地獄的の見聞であった。

(人間がみすみす饑え死ぬとは!)

理窟ではなく実感として、彼女はひしひしと身に堪えた。