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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「人殺しイーッ、助けてエーッ! 織江お姉様を助けてエーッ」と気は狂っておりながらも、慕わしい織江の命の危険は、自ずと解って血を吐く呼び声! ――金切り声で呼ばわる呼ばわる。

姿を現わしたお浦を眼に入れ、仰天したのは九十郎で、

「やアお浦、狂女のお浦! ……江戸にいるはずのままごと狂女が! ……こんなところに……こんなところに!」

言葉に出して叫んだが、その間も織江を仕止めようと、踏み込み踏み込み切り立てる。

「助けてエーッ、人殺しイーッ!」

地団駄を踏み木乃伊を振り立て、なお叫ぶ叫ぶ叫ぶお浦!

悲痛のその声を聞きつけたは、遙かに盆地の草を分けて、丘の方へ歩いていた範之丞とお吉で、

「人殺しという、助けてという。はてな」

と範之丞は足を止めた。

振り返って見れば廃屋の縁に、女らしい人影が小さく見え、そこから声が聞こえて来た。

「助けてーッ、人殺しーッ」

十九

「人殺しと申しておりましたな」

範之丞は呟くようにいった。

「助けてーと叫んでおりまする」

お吉もいってなお見やった。

丈なす枯れ草の上を抽んで、時々二本の白刃らしいものが、陽に反射して輝くのが見えた。

「助けてという声を聞きましては……武士としてこのまま……武士としてこのまま……」