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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

強請かたりに似たようなことを、二、三の悪友と組んでやって、今日まで食いつないで来たのであったが、それも最近いきついてしまった。やぶれかぶれのクソ度胸! それでいよいよお浦をかせに、田沼様に強談しようものと、このうちこわしの夜に出て来たのであった。

(衆怨の府の田沼様だ、こういううちこわしのある夜などは、どこへも出ずに屋敷にいて、多少恐怖も感じていよう。そこを狙って……)と出て来たのであった。

旧田沼様の家臣の彼は、下屋敷の案内も知っていた。

(この辺がよかろう)と土塀の上を睨んだ。植え込みが内側から枝を差し出し、その影で土塀は暗かった。お浦を小脇に抱え込み、土塀にピッタリ寄ったと見るや、武術には無双に精妙の彼、軽々と土塀の頂きまで飛び、一瞬内側を見下ろしたが、ヒラリとばかりに飛び下りた。

佇んで様子を窺った。

それから先へソロソロと進んだ。

(阿蘭陀物で飾られた、いつものお部屋にいることであろう)

こう思って九十郎はそっちへ進んだ。

森閑として人気なく、幾棟か立っている高楼や、それを繋いでいる幾筋かの廊下や、それを囲繞した植え込みや、その間にともされた石燈籠や、泉水や築山や亭や橋や――下屋敷の様は昔のままであった。