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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
やがては貝十郎自分自身、お浦の手から遺言状を取り上げ、こっちへ渡すに相違ない。
――こう思えば意次はやはり幸運が、いまだに自分から立ち去らないように、そんなように思われてならないのであった。
うちこわしの大衆の喚く声々が、表門の方から潮流のように、騒がしく遠々しく聞こえて来た。
と、その時あわただしく、用人の各務九郎次が、扉を排してはいって来た。
「殿一大事にござります!」
「…………」
意次は睨むように見たばかりであった。
「十二神貝十郎お浦めを! ……」
「何※(感嘆符疑問符、1-8-78)」
と意次は毛皮のかかった、長椅子から思わず立ち上がった。
「松平冬次郎配下とか申す、二人の無頼漢にお浦めを、奪い去られましてござります!」
呻きともつかず吼え声ともつかない、怒りと苦痛とを一緒にしたような、異様な声を出したかと思うと、意次は用人九郎次を突きのけ、部屋から外へ躍り出し、廻廊から庭へ飛び下りるや、表門の方へ走って行った。
十七
と、一人の女を連れて、貝十郎が行手から、こっちへ歩いて来る姿が見えた。
屋内から射している燈の光で、その女の姿は見えたが、それは見ず知らずの女であり、ままごと狂女のお浦ではなかった。