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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

この時ヤーッという気合をかけ、熊太郎が大刀を引き抜いて、刀身を見上げ見下ろした。

「九十郎の片腕斬り落としました際、大切の備前長船を、刃こぼれさせましてござります」

「ハハハハ」と冬次郎は笑った。

「戸ヶ崎だけは野菜よりも、肉に執着があるらしいの」

織江は九十郎という言葉を聞き、その九十郎と旅をして歩いた、恐ろしかった経験を、心を隅に呼び起こした。(よくまア無事で通されたこと! 心も体も清浄のままで)

そう思わざるを得なかった。

(でも妾はあの旅をして、百姓一揆の中などへはいって、本当に浮世の相を知り、おかげで心がしっかりして来た)

感謝したいような気持ちもした。

陽は明るく庭にあふれ、垣根の裾に咲きつづいている、水仙、寒菊、雪割り草などが、その陽の中で呼吸づいてい、早梅の枝には渡り鳥が、踊るように飛んでいた。

来客があるので遠慮しいしい、小声で歌う外伝の、ちょぼくれの声がなお聞こえた。

※(歌記号、1-3-28)お役はなれて、女の老中に、めったに叱られ、これまでいろいろ瞞しとったる五万七千、名ばかり名ばかり、七十づらして、こんなつまらぬことこそあるまい、天時つきたる、悲しいこんだに、ホーイホーイ。