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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

――返辞をしたそのとたんに、ガラリとその戸が大きく開き、

「あなた織江様?」

という女の声が聞こえた。

「はい」

と振り返った織江の眼に、家内から射している燈火を背負った、粋な女の年増姿が見えた。

「では、織江様おはいりなされ」

「はい、でも、どなた様やら」

「恐かアないよ、こうはいるものさ」

「あれ!」

グルグルと年増女の手が、瞬間織江の咽喉へかかり、争う間もなくグーッと締められた。

小太刀を使わせては相当の技倆、その織江ではあったけれど、不意ではあり油断もしてい、躯も疲労れていた上に、相手の女の締めの業、冴え勝れていたからであろう、抜き持っていた懐刀を、まずボッタリと地へ落とし、織江はフーッと気を遠くした。

ズルズルと引っ張り込み、門の戸ピッシャリ閉ててしまうと、気絶している織江の躯を、女は奥へ抱いて行った。

後は寂!

カーンとしていた。

が、すぐに声が聞こえた。

「この辺から返辞が来たんだが、変だなア、いやアしねえ」

駈けつけて来た勘助が、家の外の道をウロウロと、今頃になってさがしているのであった。

その恐ろしかった切り合いの夜から、二日経った日の午後である。