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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

飾り気なしに銀簪を、根深くグッと一本だけ差し、それへグルグルと巻きつけた髪が、細面の顔に似合って見え、藍の竪縞の広袖で、痩せぎすの躯をフックリと包み、腰をくねらせての横坐り、酒で身内がほてると見えて、胸もとを少しはだけているので、綺麗な肌が覗いて見える。そういうお吉は二十八、九か、もう少し行っているかもしれない。

いいいい猪口でまた唇をぬらした。

「昔の大籬の女郎って奴、おおよそご大相な見得と見識とを、持ってもいたが見せつけもしたものさ」

九十郎は寝たままそういって、湯呑みを引き寄せグッとあおった。白湯ではない酒なのである。

太い髷の総髪であった。二、三日剃刀をあてないと見えて、もみあげから※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)へかけじじむさそうに、髭が薄黒く隈取ってはいたが、細くスーッと切れ上がった眼、高く長く通った鼻、薄くしっかりと結ばれた口、どうしてなかなかの美男であった。

「あちこち手傷負っているというのに、そう飲んじゃア悪かろう」

剃った眉の跡の青い額へ、小皺を寄せてお吉はいった。

「傷がヒリヒリ痛むから飲むのさ。酒で痛みを消すってやつさ」