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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

そのあげくに足ぬきまでして、こうした薄っ暗い借家住居、並たいていお前へ尽したことじゃアない。粗末にすると聞かないよ」

「ともう早速恩にかけか。ナーニ俺らが智恵をつけて、あそこを足ぬきさせなかろうものなら、だんだん下がって三日月長屋、あの辺へ出てごろん棒や折助、そんな野郎の玩具になり……」

「何をいうんだい置いてくんな、三日月長屋って馬鹿にするが、あそこの柏屋にゃア一枚絵に出た、お仙さんだっていたんだよ」

「お仙はお仙、お前はお前、まあいいやな、そんなこたア。……」

いって意味ある笑いを見せた。

で、お吉もニヤリとした。

丸窓に陽があたっていて、小枝の影が映っていて、まぐれた渡り鳥の山雀らしい、来て止まったもののすぐ飛んでしまった。

「それじゃアあたしゃア化物様へ、お斎を供えて来るとしようよ」

思い出したようにこういって、胸もとの辺へ風を入れ、顔を横向けてお吉が立ち、台所へちょっとはいって行き、そこから下駄をつっかけて、歯音を立てて出て行ったのは、それから随分経った後で、その歯音の遠ざかるのを待ち、九十郎も立ち上り、廊下へ出て梯子段をあがった。

二階の一室に織江がいた。