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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

貴殿にご異存ござるまいな」

「…………」

「田沼殿へお渡しいたさねばならぬ、二人の女を今日まで引き止め置かれた貴殿の心底、何んとも合点いたしませぬが、その儀については貝十郎、一切不問にいたすばかりか、田沼殿へも申しますまい。ゆえに」

と貝十郎は澄んではいるが、肺腑まで徹する鋭い眼で、九十郎の顔を正視した。

「ゆえに拙者が二人の女を、連れ帰ったということを、貴殿におかれても田沼殿はじめ、一切他人へ告げ口無用! よろしゅうござるな、平戸氏!」

「…………」

九十郎は渋々ながらも、観念して頷いた。

武蔵野の一所多摩川に近く、「逃げ水の屋敷」と俗に呼ばれる、田沼主殿頭の野別荘が、全く落成して巍々たる姿を、秋空の下に現わしたのは、数日後のことであった。

その屋敷を眺めながら、六人の男女が逍遙していた。

野遊びに出た武家の家族。――といったような一団であったが、その実は松平冬次郎と、戸ヶ崎熊太郎と三人の賊、――外伝と新助と勘助と、他にもう一人織江の兄の、服部範之丞との一団であった。

秋の深い十一月、なかばになった清麗の武蔵野――落葉樹の林、芒尾花、ちょろちょろ野川、土橋小径、冬近いので鳴き弱った虫の音、そういう風物に飾られた野を、外見はまことに長閑そうに、六人のものは歩いていた。