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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
「ただただ拙者与力としての、役目果たせしそれまででござる」
「いうな姦物、首鼠両端児! 味方となり敵となる譎詐の奴! 汝本心はこうであろう、田沼の隠密こうであろう! ……これ十二神、聡明達識、その方の資をもってしても、田沼の悪逆わからぬか※(感嘆符疑問符、1-8-78)」
「その悪逆はいざ知らず、すくなくも私より見ますれば、田沼様は大施政家!」
「黙れ! 何を! ……何を、何を! ……大施政家なんどと何を何を!」
「与力としては申しますまい、殿を相手の論客として、貝十郎一応申そうならば、まず第一に開化施政! 蘭学勃興いたせしこと!」
「愚かや十二神何と申す! 蘭学勃興は自然の趨勢、それを田沼が自分自身、異国物もてあそぶ性癖よりして、わずかに助長いたせしまで!」
「異国物を愛するその性情こそ、すなわち開化に念ある証拠、何んぞ難ずることありましょうや。……次に讃うべきは貿易方針! 実にこのことにござりまする。鷲の国ロシアのカザリン女帝、不世出の英資をもって、版図を拡め日本の地をさえうかがわんとして虎視眈々、蝦夷地に向かって手を延ばさんとす。ここに至って松前侯、密貿易を行わせらる! これを察した主殿頭様には、密貿易こそ国の害、如かず開港して正々堂々、ロシアと交通貿易せんと……」