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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

冬の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 170,664 字 · 341 页

青空文庫

第三百十六 新蕎麦

それが料理法の一番肝腎な処です」と嬢もまた時あって長広舌を揮う事あり。小山の妻君いよいよ感心し「なるほど伺ってみると段々面白くなります。世間の人は何でも新しいものが食物に適当だと思って猪でも雉でも新しいほど悦ぶ人もありましょうが新しいのでかえって毒なものもあり、古くって悪いものもあり、一々その物の食べ頃を知らなければなりません。鶏卵でさえ産みたては料理に使えないで三十六時間過ぎた処が食べ頃だと伺いましたが小麦の新しいのも悪いしお米の新しいのも悪いし、猪や雉の鮮しいのも悪いし豚の鮮しいのも定めて悪いでしょうね」お登和嬢「豚も冬ならば四、五日位、暖い時でも涼しい処へなるたけ長く置かなければいけません」妻君「しかしお野菜なんぞは大概新しい方が好いようですね。私どもでは新蕎麦が大好きでよく宅で蕎麦の新しいのを打たせますが新蕎麦はどういうものでしょう」と今は一々食物の食べ頃を問わざるべからず。

第三百十六 新蕎麦

蕎麦は日本の名物なり。殊に信州の産を以て良品となす。お登和嬢は西国の人いまだ蕎麦の事に委しからず「そうでございますねー、お蕎麦の方はよく存じませんが別に新蕎麦が害になると聞きません。