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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

冬の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 170,664 字 · 341 页

青空文庫

第二百九十四 大打撃

第二百九十四 大打撃

人世の風波は思い設けぬ方面より起る。小山の妻君熱心に「マアどうぞ終いまでよく聞いて下さい。それが全く私の邪推で、娘時代の理想に良人が高利貸に責められるというような事も想像しませんからただ驚きのあまり色々な邪推を起したのです。極端まで邪推を逞ましくしたのです。そういう時に好い方角へ考える事は決してありません。悪い方へばかり考えて独りで悲しくなりました。晩になって良人が帰りましたからその話しをしますと良人も少々困った風で、あれがいよいよ遣って来たか、あれは友達の借金へ判を捺したが連帯責任になっているから此方へ来たのだ。本人は遠方へ往っていてとても返金の見込はなし、自分が何処までも責任を負わねばならんと頻に思案をしております。私はその時済まない事ですがまだ良人を疑いました。友達の借金なら貴郎が被る訳もありますまい。貴郎も少しは手伝ってお遣いなすったのでしょうと串談のように気を引いてみましたけれども決してそうでないといいます。それならば机の抽斗にある芸者の写真はどうしたのですと痛くない腹まで探りますと、その友達があの芸者に溺れて堕落したから非常に苦諫して手を切らせて遠方へ友達を遣ったのだ、その時友達の手から取上げた写真だとこう申します。