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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
金魚籤
一
金魚籤
一
慶長五年九月十五日、東西二十万の大軍、美濃国不破郡関ヶ原に対陣した。ここまでは、どの歴史の本にも、書いてある。
家康は、桃配というところに陣を敷いていたが、野天風呂を命じて、ふろ桶から首だけ浮かべて幕僚に策を授けた。これは、ほんとの秘史で、どの本にも書いてないけれども、この、大将の敵を前にした泰然たる入浴ぶりに、全軍の士気大いにあがり、それがひいては勝敗を決定して、徳川の礎を据えたと言われている。
ところで、そのとき、パラパラと雨が落ちてきた。すると幕下のひとりに、小気のきいた奴があって、その湯にはいっている家康公に傘をさしかけながら、背中を流した。
その落ちついたありさまが、ひどく家康の気にいって、そいつを旗下にとり立てて、世々代々風呂番をお命じになった。
これが初代の愚楽で、それ以来、旗下八万騎の一人として、相伝えて将軍さまの垢をながしてきた。人呼んで垢すり旗下。
だから、愚楽老人、ただの風呂番ではない。真っぱだかの人間吉宗と、ふたりっきり、ほんとうに膝つき合わせて、なんでも談合できるのは、愚楽ひとりだった。
さて……。
今日は、いよいよ来年の日光修理の大役が、指名される日である。