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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

五

「そんな曲芸はできぬ。またヒョイと飛んだところで、お主の手のほうが長い仕事はできなかろう」

とつぜん、左膳は大声に笑いだした。

「こりゃあどうも、あわてているときは、しょうのねえものだ。おぬしが下になろうが、おれが台に立とうが、十尺のものは十尺、どう伸び縮みするわけもねえのに、アハハハハ」

「まったく、理屈だ。われら両人、かなり狼狽いたしおるとみえる」

狼狽するのも、もっともで。

鉄瓶の口から、つぎこむように、天井の小さな穴から、ただ一条そそぎこまれる水は、刻々たまる一方だ。

左膳の肩車をおりた源三郎、もう、足の甲まで水にかくれるのをおぼえて、愕然としたのであるが、なんの方策もたたぬ。

二人は、黙然と顔を見合わせるばかり。

左膳がこの穴へ落ちこんでから、もはや何ときたったであろう。

源三郎は、その一日前から飲まず食わずで、この地下に幽閉されていたのだ。

たいがいのことにはビクともせぬ伊賀の暴れん坊だけに、そのうちになんとかなるだろうと、泰然としてこの地底に、胡坐をかいて澄ましこんでいたのだが。

水が出ては。

もう、その胡坐もかけぬ。

いつのまにかふたりは、たかだかと着物の裾をはしょって、洪水の難にあった姿。