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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
四
「どうしてそれを!……かく言う拙者を作阿弥と看破さるるとは、貴殿は、容易ならざる眼力の持主――」
「なんの、なんの! ただ、ごらんのとおり雨にうたれ、風に追われて、雲の下を住居といたす者、チラリホラリと、何やかや、この耳に聞きこんでおりますだけのこと。当時日本に二人とない彫刻の名工に、作阿弥という御仁があったが、いつからともなく遁世なされて、そのもっとも得意とする馬の木彫りも、もはや見られずなったとは、ま、誰でも知っておるところで……」
作爺さんは、仮装を見破られた人のように、ゲッソリしょげこんでしまったが。
事実、このとんがり長屋の住人、羅宇なおしの作爺とは、世を忌み嫌ってのいつわりの姿で、以前は加州金沢の藩士だったのが、彫刻にいそしんで両刀を捨て、江戸に出て工人の群れに入り、ことに、馬の木彫に古今無双の名を得て、馬の作阿弥か、作阿弥の馬かとうたわれた名匠。
「ふうむ。この小さな馬が、いまにも土煙を立て、鬣を振って、走り出しそうに見えるテ」
ほれぼれと、長いことその馬の彫り物を、手に眺めていた泰軒は、
「して、その作阿弥殿がいかなる仔細にて、この陋巷に、この困窮の御境涯――」