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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

三

「ウム、そうだったねえ。ほんとの父やおっ母は、行方知れずでも、あたいには、こんな強い父ちゃんがあるんだったねえ」

焼け残りの材木に腰かけて、ぽつねんと考えこんでいた左膳、とうとう焼け跡に一夜を明かして、やっとあきらめて起ちあがった時!

朝靄の中から、突如人声が生まれた。

「向うの辻のお地蔵さん

ちょいときくから教えておくれ

あたいの父はどこへ行た

あたいのお母どこにいる――」

三

「ナニ、源三郎様にかぎって、さような死をおとげなさるはずはない」

「それにしても、陰謀の巣へ、単身お乗りこみになったとは、いささかお考えが浅うござったワ」

「腕に自信がおありだったから、かえって危険を招くことにもなる」

乳のような濃い朝霧をわけて、息せききってここへ駈けつけてきたのは、安積玄心斎と谷大八の注進によって、麻布上屋敷の尚兵館をあとにした伊賀侍の一団。

麻布から向島のはずれまで、たいへんな道のりです。

高大之進、井上近江、喜多川頼母ら、四、五人の頭株は、途中から辻駕籠にうち乗り、他の者はそれにひきそって、朝ぼらけの江戸を斜かいにスッとんできたのだから、明けやらぬ町の人々はおどろいて、何事が起こったのかと見送っていた。