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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

五

それじゃア普段の左膳が泣く。

濡れ燕が、承知せぬ。

決してそういうわけじゃないんです。

ただ……さんざん世話をやかせた壺だけれど、壺に足があるわけではない。現実に、ここにこうして存在してるんだから、べつに逃げだしはいたしません。あけようと思えば、今にもあけて見られるのだから、あえていそぐにはあたらない。

まず、萩乃に一筆したためてから、ユックリあけてみるとしよう。見るまでの楽しみは大きいんですから、できるだけそのたのしみを長くしようという考え。

なんのことはない。

好きなお菓子をいただいたこどもが、すぐかぶりつけばよさそうなのに、なかなか食べないのと同じような心理で。

それよりも。

この壺の秘める密図の指示するところにしたがって、東西南北いずれにせよ、どっちみち明朝早く江戸を発足するのだから、もう当分、萩乃に会えない。

それを思うと左膳、がらにもなくちょっと暗然としちまうんです。

で。

また会う日まで……なんていうと、讃美歌みたいですが、とにかく左膳、なんとかしてあの萩乃様へ、今この心のたけを書き送っておきてエものだと――。

剣を持たせれば変通自在、よく剣禅一致ということを申しますが、わが左膳においては、剣もなく禅もなく、いわんやわれもなく、まったく空気のような、色もにおいも味もないほどの、武道の至妙