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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

血の哄笑

一

血の哄笑

一

子供の使いじゃあるまいし、壺をとられました……といって、手ぶらで、本郷の道場へ顔出しできるわけのものではない。

あの端気丹波が、ただですますはずはないのだ。

首が飛ぶ……と思うと、与吉は、このままわらじをはいて、遠く江戸をずらかりたかったが、そうもいかない。

いつの間にか、うす紫の江戸の宵だ。

待乳山から、河向うの隅田の木立ちへかけて、米の磨ぎ汁のような夕靄が流れている。

あのチョビ安というところ天売りの小僧は、なにものであろう……丹下の殿様は、あれからいったいどういう流転をへて、あんな橋の下に、小屋を張っているのだろうと、与吉のあたまは、数多の疑問符が乱れ飛んで、飛白のようだ。

思案投げ首。

世の中には、イケずうずうしい餓鬼もあったものだ。それにしても、悪いところへ逃げこみやがって――驚いた! 丹下左膳とは、イヤハヤおどろいた!

ニタニタッと笑った時が、いちばん危険な丹下左膳、もうすこしで斬られるところだった。あやうく助かったのはいいが、またしても心配になるのは、なんといって峰丹波様に言いわけしたらいいか……。

それを思うと、妻恋坂へ向かいだした与の公の足は、おのずと鈍ってしまう。