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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

二

へえんなよ」

作爺さんが、白髪あたまをのぞかせてどなると、袂を胸に抱いたお美夜ちゃん、ニコリともせずに振り返った。

二

「そんなところに立っていたって、チョビ安は帰って来はしないよ。うちへはいりなさいっていうのに」

作爺さんはやさしい顔で呼びこもうとする。洗いざらした真岡木綿の浴衣の胸がはだけて、あばらが数えられる。

「チョビ安は、この作爺やお美夜のことなど、なんとも思ってはいねえのだよ。だから、ああして黙って出たっきり、なんの音沙汰もねえのだ」

そういう作爺さんの顔は、悲しそうである。

「あい」

と素直に答えたが、お美夜ちゃんは、ちょっとふり向いただけで、またすぐ竜泉寺の通りへ眼を凝らすのだった。

七歳のお美夜ちゃん……稚児輪に結って、派手な元禄袖のひとえものを着て、眼のぱっちりしたかわいい顔だ。

作爺さんの娘ということになっているが、父娘にしては、あまりに年齢が違いすぎる。実は、この作爺はお美夜ちゃんの父ではなく、お祖父さんなので、その間にも何か深い事情がありそう……。

羅宇屋の作爺さんとお美夜ちゃんが、このとんがり長屋の一軒に住んでいるところへ、どこからともなくあのチョビ安が、隣へ移って来たのは、一年とすこし前のことだった。