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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

二

まくらもとに控えている、茶筅あたまに十徳の老人は、医師であろう。詰めかけている人々も、ひっそりとして、一語も発する者もない。

空気は、こもっている、香と、熱のにおいで、重いのだった。

「お蓮――」

と、死に瀕した老先生の口が、かすかにうごいた。

医者が、隣にすわっているお蓮さまに、ちょっと合図した。

「はい――」

泣きながら袂で眼をおさえて、お蓮さまは、病夫の口もとへ耳を持っていった。

このお蓮さまは、司馬老先生のお気に入りの腰元だったのが、二、三年前、後妻になおったのである。それにしても、先生のむすめといってもいい若さで、それに、なんという美しい女性であろう!

明りを受けたお蓮さまの顔は、真珠をあたためたようにかがやいて、眉の剃りあとの青いのも、絵筆で引いたように初々しいのだった。

「もう長いことはない」老先生は、喘ぐように、

「まだ来んか。伊賀の――源三郎は、まだ江戸へ着かんか」

「はい。まだでございます。ほんとに、気が気でございません。どう遊ばしたのでございましょう」

お蓮さまは、あせりぬいている顔つきだった。

二

「神奈川、程ヶ谷のほうまで、迎いの者を出してありますから、源三郎様のお行列が見えましたら、すぐ飛びかえって注進することになっております。