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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

四

「源三郎に刃の立つ者は、広い天下にたった一人しかないぞ?」

いぶかしげに、与吉は首をかしげて、

「へえイ、それはどなたで?」

「もう一人の源三郎殿だ。つまり、いまひとり源三郎殿があらわれねば、彼と刃を合わすものはあるまい」

「フウム、もう一人の源三郎……」

と、何を思ったか、与吉、ハタと小膝を打って、

「峰の殿様、あっしに心当りがねえでもねえが――」

「いま、源三郎殿は、どこにおる?」

いつのまにか、丹波は、顔いろを変えて、突ったっていた。

「其方が知った以上、やむを得ん。わしが斬られよう。丹波の生命もまず、今宵限りであろう」

「待った! あっしに一思案……」

「とめてくれるな」

と丹波、大刀を左手に、廊下へ出た。

四

逃げも隠れもせぬ。ここに待っておるから、丹波に告げてこい……源三郎はそうは言ったが、よもやあの刀を帯びない植木屋すがたで、暢気に丹波の来るのを待ってはいまい――与吉はそう思って、丹波のあとからついていった。

司馬道場の代稽古、十方不知火の今では第一のつかい手峰丹波の肩が、いま与吉がうしろから見て行くと、ガタガタこまかくふるえているではないか。

剛愎そのものの丹波、伊賀の暴れん坊がこの屋敷に入りこんでいることを、さわらぬ神に祟りなしと、今まで知らぬ顔をしてきたものの、もうやむを得ない。