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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
四
四
「尺取り虫、虫
尺とれ、寸とれ
寸を取ったら
背たけ取れ!
尺とり虫、虫
尺取れ、背とれ
足の先からあたままで
尺を取ったら
命取れ!」
こういう唄なんだ。命とれとは、物騒。
こいつを、お藤、チリチリツンテンシャン! と三味に合わせて歌っているんでございます。
畳のうえには、五匹ほどの尺とり虫が、ゾロゾロ這っている。まことに妖異なけしき……。
トロンと空気のよどんだ、江戸の夏の真昼。隣近所のびっしり立てこんだこの高麗やしきのまん中で、ひとりのあやしいまでに美しい大年増が、水色ちりめんの湯まきをチラリこぼして、横ずわり――爪弾きの音も忍びがちに、あろうことか、尺取り虫に三味を聞かせているんで。
お藤はじっと眼を据えて、這いまわる尺取り虫を見つめながら、ツンツルルン、チチチン、チン……。
「尺とれ、背取れ
足のさきから頭まで
尺をとったら
命取れ――」
一生けんめいに呼吸をつめて、唄っているお藤の額は、汗だ、あぶら汗だ。この汗は、閉め切った部屋の暑さのせいばかりではない。人間のもつ精神力のすべてを、三味と唄とに集中して櫛まきお藤は、いま、一心不乱の顔つきです。
上気した頬のいろが、見る間にスーッと引いて、たちまち蒼白に澄んだお藤は、無我の境に入ってゆくようです。