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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

五

泰軒があけてみると、紙には、ただ一行……。

「即刻御来駕を待つ――」

誰からの投げ入れ文?

五

「いや、ただいま使いをやりましたから、ほどなくまいりましょう」

忠相は、こう言って、その下ぶくれの柔和な顔をほころばせて、客を見た。

桜田門外の、江戸南町奉行大岡越前守忠相のお役宅だ。

その奥座敷――。

前の庭は闇にとざされて、植えこみの影が黒く黙している。

が、室内には……。

燭台の灯が明るくみなぎって、磨きぬいた床柱と、刀架けの蝋鞘と、大岡様のひたいとを、てらてらと照らしだす。

「壺の騒ぎは、以前お話のありましたとおり、それとなく看視はしておりますが――」

と言いかけて、忠相はまた、相手へ眼をやった。

客は。

七、八つの子供ような、小さなからだに、六十あまりの分別くさい顔――それが、いかにもグロテスクな大きく見える顔で、おまけに、これだけは一生の荷の瘤を、背中にしょっているのは、言わずと知れた亀背の愚楽老人である。

千代田の三助……垢すり旗本。

お庭番という、将軍家直属の隠密の総帥。

八代吉宗公のかげの最高顧問です。

白髪を、根の太い茶筅にゆい、柿いろの十徳を着て、厚い褥のうえにチョコナンとすわったところは、さながら、猿芝居の御隠居のようだ。