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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
三
サ、したく、したく」
言われるまでもなく、皆もう用意をすまして、パラパラッと庭へ飛びおりると、
「鉄十郎殿はどうした」
「馬はどこにおる」
「鉄十郎を乗せて、ドンドン駈けていってしもうた」
「ソレ行け。見失うな」
ほのぼのと朝の色の動く司馬道場の通用門から、一隊の伊賀侍が、雪崩をうって押しだした。
見ると。
庭の柴折戸をやぶって飛びだした源三郎の愛馬、五十嵐鉄十郎を乗せたまま、砂煙をあげて妻恋坂を駈けおりていく。
一同はこけつまろびつつづいたが、先が馬ではすぐはぐれてしまう。気のきいたのが、自分たちも司馬家の馬小屋から、四、五頭ひきだしてきて、馬で後を追った。徒歩の者は、道みち駕籠を拾ってつづく。
騎馬の一人が連絡係となって時どき引っ返してきては、駕籠に方向を知らせておいて、また先頭に追いつく。
戞々たる馬蹄の音が、寝おきの町を驚かせつつ、先駆の五十嵐鉄十郎の馬は、いっさん走りに向島を駈けぬけて、やがて葛飾へはいり、客人大権現の森かげなる司馬寮の焼け跡へついた。
馬というものは、おぼえのいいもので、帰りはむだ道一つせず、主人を思う一心から、ちゃんと火事跡へ駈けつけたのだ。