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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

二

少年は、ニッコリ微笑して、

「は? お言葉ともおぼえませぬ。それはどういう――?」

「イヤ、まだ腹は痛うならぬかと申すのじゃ、ハツハッハ」

「いえ、いっこうに……」

「うむ、其方は何も知らぬとみえるナ」

「と申しますと?」

「よろしい。タ、ただ、武将たるもの、敵地にあって飲食をいたすには、これだけの用心は当然――武士の心得の一つというものじゃ」

眼をまるくした少年は、思わず、

「敵地?」

と、声を高めました。

その顔を、源三郎はつくづく見つめて、

「なるほど、其方はまだ年端もゆかぬ。御後室と丹波と、予とのあいだに、いかなる縺れが深まりつつあるか、よくは知らぬのであろう」

「は。うすうすは……」

と少年は、その前髪立ちの頭をしばし伏せましたが、

「しかし、なにとぞ御安心のうえ、お箸をお取りくださいますよう――」

ウムとうなずいて、源三郎は食事をすすめたが、その間も、気になってならないのは……。

丹波をはじめ十五人の道場のものどもが、いまだに顔を出さないのみか、さほど広くもなさそうなこの寮が、イヤにヒッソリ閑として、どこにその連中がいるのか、そのけはいすらもないことです。