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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

どうぞ御安心遊ばして、お待ちなさいませ」

まことしやかなお蓮さまの言葉に、老先生は、満足げにうち笑んで、

「源三郎に会うて、萩乃の将来を頼み、この道場をまかせぬうちは、行くところへも行けぬ。もはや品川あたりに、さしかかっておるような気がしてならぬが、テモ遅いことじゃのう」

と司馬先生は、絶え入るばかりに、はげしく咳く。

いまこの室内に詰めているのは、医師をはじめ、侍女、高弟たち、すべてお蓮さま一派の者のみである。老先生と柳生対馬守とのあいだにできたこの婚約を、じゃまして、これだけの財産と道場を若い後妻お蓮様の手に入れ、うまい汁を吸おうという陰謀なのだ。

剣をとっては十方不知火、独特の刀法に天下を睥睨した司馬先生も、うつくしい婦人のそらなみだには眼が曇って、このお蓮さまの正体を見やぶることができなかった。

十方不知火の正流は、ここに乗っ奪られようという危機である。

多勢が四方から、咳き入る先生をなでるやら、擦るやら、半暗のひと間のうちが、ざわざわ騒ぎたったすきに乗じて、お蓮さまはするりと脱け出て、廊下に立ちいでた。

嬋妍たる両鬢は、秋の蝉のつばさである。