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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

左膳が斬りむすんでいるまに、チョビ安が追われて逃げこんだのが、偶然にも、高麗屋敷は尺取り横町の、あの櫛巻お藤の隠れ家だった。折りあしく、そこにとぐろをまいていた鼓の与吉に、大声に戸外へどなられて、チョビ安、押しこんで来た黒覆面の連中に、難なくつかまってしまった。ほどなく左膳もこの家に現われたが、見るとチョビ安は、畳におさえつけられて、咽喉に刀を擬せられている。

「一、二、三、四――」

十まで数えるうちに、左膳のかかえこんでいる壺を渡さなければ、ズブリ! 突き刺すというんだ。

「八、九――!」

かわいいチョビ安の命には、換えられぬ。

「待った! しかたがねえ」

左膳があきらめて引きわたした壺の木箱を、高大之進の一団、おっとりかこんで、その場であけてみると! 思いきや、ころがりでたのは、真っ黒々な破れ鍋が一つ!

しかも、達者な筆で「ありがたく頂戴」と書いた紙きれがついて、

敵も味方も、これにはあいた口がふさがりません。壺はいつのまにか、河原の小屋から見事に盗み出されていたんだ。それとも知らず左膳は、いつからか、この掏りかえられた鍋を、今まで後生大事にまもってきたとは!