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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

「本郷までやれ」

顎をしゃくったときに、雲間を流れる月かげに、照らしだされたその顔を見ると、息せききって走ってきたふうで、大たぶさの根がゆるみ、面色蒼褪めているのは、あながち月の隈取りばかりではないらしい。

新刀試しの辻斬り? よくあるやつです。

そうではないにしても、あまり気味のよいお客様じゃアないから、先棒と後棒は、ちらと眼で、用心の合図をかわしつつ、

「本郷はどちらまでで?」

「妻恋坂だ。あそこの司馬道場、存じておるであろう。急いでやれ」

「ナアおい、相棒、妻恋坂だとよ。へっ、いいかげん長丁場だなア」

「ねえ、旦那。あっしらア戻り駕籠で、これから巣へけえって、一ぺえやって寝ちまおうと思ってたところなんだ。けえりが半ちくになりやすから、思い入れはずんでおくんなせえ」

「もう電車はないんですから、つけめですよ。だいぶガソリンもくいますから、七十銭やってください」

そんなことは言わない。

「賃銀はいくらでもとらせる。酒代も存分につかわそうほどに、めちゃくちゃにいそいでくれっ!」

「オーケー、さァ。お乗んなせえ」

かご屋が駕籠の中へ手を入れて縞の丹波木綿の小座蒲団を、ちょいと裏返しする。