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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

二

ているところへ、どこからともなくブラリとあらわれて、侍たちを追っ払ってくれたのが、この泰軒居士であった。

いつだって、どこからともなくフラッと現われるのが、泰軒先生の便利なところなんだ。

今も今で、こうして長屋の連中が角に立って、ワイワイ先生のうわさをしていると……。

「向うの辻のお地蔵さん、よだれくり進上、おまんじゅ進上――ハッハッハ、どうじゃ、なかなか堂に入ったものじゃろう」

変な唄歌が、通りのほうから……。

二

たいしたもんですね、泰軒先生の人気たるや。

そう、遠くのほうから、チョビ安作、親なし千鳥の唄をうたってくる先生の声が、聞こえると、路地にガヤガヤしていた長屋の一同、兵隊さんがさわいでるところへ師団長が来かかったように、ピタリ鳴りをしずめて、

「お! お帰りだ! お帰りだ!」

「先生のおもどりだぞ」

「御帰館だ――」

なんかと、なかには、ブルジョア用語を心得てるのもある。

この声々が、口から口、耳から耳とリレー式に、たちまちのうちに路地口からトンガリ長屋の奥まで、ズーッと伝わっていくところは、壮観です。

角に待つ連中は、声をひそめて、

「あれで、泰軒先生は、腕っ節のつええばかりが能じゃアねえんだ。