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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
三
泰軒先生のあとから、長屋の連中が行列のようについて、ワイワイいって作爺さんの家へ送りこむんです。
その群れから、こういって声をかけた者がある。長屋のずっと奥にすんでいる、どこかの見世物小屋の木戸番です。
泰軒先生は振りむきもせず、せまい路地に悠々と足音を鳴らしながら、
「ホホウ、娘に虫がついた。恋ごろも土用干しせぬ箱入りのむすめに虫のいつつきにけむ……やはり、蚤、虱の類でもあるかな?」
「へえ、もっと性の悪い虫なんで。二本足の虫でげす」
「二本足の虫? それはめずらしい。後学のため、わしも見たいものだな。一度うちへよこしなさい。しかし、あんたも、そうはじめから悪い虫ときめてしまわんで、よくその虫を見ることだな。案外、娘さんにとっていい虫かも知れんでな」
「へえ、ありがとうごぜえます。どうぞ、その野郎を――イヤ、ソノ虫をつかわしやすから、とっくりごらんなすってくだせえまし」
これじゃアまるで昆虫学みたいだが、こうやって泰軒先生は、この長屋の人事相談いっさいを引き受けているかたちだ。
「先生ッ!」
と叫んで、通りかかった家の中から、髪をふりみだした女房がかけでてきた。