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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

四

知らぬ顔の半兵衛で、長火鉢の猫板に巻紙をとりだし、硯に鉄瓶のしたたりを落として、左手で墨をすりはじめている。

床へはいったお藤は、胸に一物ございますから、ねるどころではありません。すぐさま、わざとスヤスヤと小さないびきを聞かせて、薄眼をあけ、じょうずな狸寝入り。

見られているとも知らず、左膳、口に筆をかんで、いやに深刻な顔で巻紙をにらんでいる。どこへやる文やら、寒燈孤燭のもと、その一眼は異様な情熱にもえて――。

四

おらァ、女にいちゃいちゃするのが、大嫌えだ。これが一つ……と数えたてて、左膳、あの門之丞を斬ってすてたのですけれど。

また。

こんなに真実をつくす櫛巻の姐御を、いっしょに住んでいて見向きもせず、はたの見る眼もいじらしいほど、振って振りぬいていた左膳だが。

かれといえども、べつに木製石作りというわけじゃアない。

くしまきお藤のようなタイプの女は、左膳の性にあわない。好みじゃないというだけのことで――では、どんなのが左膳の理想のおんなかといえば。

なにも理想のどうのと、そうむずかしく言うにはあたらないが、あの司馬道場の萩乃、ああいうのこそ、女の中の女というのだろうなアと、左膳、さっき月にぬれて帰る途中から、ふっとものを思う身となってしまったのです。