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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

境に達した男でありますが。

文はまた別。おまけに恋文。

「チッ!書けねえもんだなあ」

と、煙突掃除みたいな大髻のあたまをかかえて、長火鉢の猫板に左膳の肘を突き、筆といっしょに顎をささえて一つッきりの眼をしかめ、ウンウンうなってるところは、まことに珍妙な図。

まったく、どなたかに助けに飛びだして、書いていただきたいくらいのもので……しかし、丹下左膳のやつが、ラブレターを書く身になろうたア思わなかった。

わからないもンですネ。

「ウッ、汗をかくだけで、一字も書けねえや」

剣妖、われながらつまらない洒落をいった。

とたんに。

「何をお前さんウンウンうなってるんだい。お腹でも痛むの?」

ねてると思ったお藤姐御が、ムックリ枕から頭をあげて、皮肉なひとこと。

これには左膳も、不意の斬込みをくった以上にあわてて、

「ウンニャ、い、一首浮かんだから、わすれねえうちに書きとめておこうと思ってナ」

「オヤ、火鉢のひきだしに、一朱あったのかえ」

「ナ、何を言やアがる。寝ぼけてねえで、早くねむっちめえ、ねむっちめえ!」

「お前さんも早くおやすみよ。油がむだだわサ」

お藤はそのまま、くるりと暗いほうを向いたが――ドッコイ、ねむってなるものか。