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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
02 こけ猿の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页
「何を言う! 現に余がこの眼で見、この手にとり、その壺を枕頭にひきすえて、やっとのことでお蓮を遠ざけ、離室で一人寝についたのだが、すると――」
「ホ、すると?」
「すると、明け方近く、あの火事だ。四方八方から一時に火の手が起こったところを見ると……」
語をつごうとする源三郎を、左膳は手をあげて、静かに制し、
「マ、長話はあととして……この穴を出るくふうはねえかな」
「ハハハハ、言われるまでもなく、貴公が仲間入りする前に、今までおれはさんざんやってみたのだ。が、四方は土、天井は手のとどかぬほど高い。落ちてきた穴はほとんどまっすぐだし、第一、なんの足場もないから、その穴へ飛びつくこともできぬのだ」
「伊賀の暴れん坊と丹下左膳、この穴の底に同居住まいとは、気のきかねえ話だなア。だが、そのうちに出る算段をたてるとして、そこで朝方の火事だが――」
「ウム、四方から一時に火の起こったところをみると、丹波一味の放火にきまっておる」
言いながらも、源三郎のくやしさ、そのいきどおりは、烈々として焔のごとく感じられるのだった。
水の音は、やまない。土をうつ水滴が、二人の会話に奇妙な合いの手を入れる。