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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

02 こけ猿の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 241,861 字 · 480 页

青空文庫

とうとう開かずにここへ飛んできたのだが――」

「それでは、いずれが本物、いずれがにせ物と判断はできぬ」

「焼け跡に、こけ猿の壺らしいものをいだいた黒焦げの死骸が一つ、見つけだされて、それが源三郎に相違ないとのことだったが、貴様はこうしてりっぱに生きておるところをみると、その死骸はいったい何者であろうナ」

「丹波の計じゃ。宵のうちに余をとりまいて、亡き者にしようとした折り、あやまって仲間で斬りころした不知火組の若侍にきまっておる」

「ウム、その死骸を黒焦げにして伊賀の源三郎と見せかけようとしたのだな」

「こけ猿の壺を、死人とともに焼くわけはないから、それは名もない駄壺にきまっておるが――」

いらだち気味に、左膳はあたりを見まわして、

「埋もれた宝を掘りに行くはずのおれが、自分がこうして埋められては、せわアねえ」

自嘲的につぶやいて、たちあがりながら、左膳の胸中は、熱湯のにえくり返るように、苦しかった。

こうして源三郎が生きている以上、萩乃にたいする自分の恋は、そだててはならぬ。わが心に生えた芽のままで、摘みとってしまわなければならないのだ。

現に、彼のふところには、思いのたけを杜若、あの恋文がはいっているのだけれど、もうこれを、萩乃にとどけることはできない……。